曇天の埼玉・所沢公園に向かうPANTA(中村治雄)。そこは彼にとって幼少の日の思い出が詰まった場所だった。かつてここに米軍の基地があった頃、PANTAの父が日本人職員として働いていたのだ。当時の面影を残すその場所には、父の同僚・メリック軍曹がハーモニカで聴かせてくれた「ケンタッキーの我が家」のなつかしい響きがあった。のちに、PANTAは名門校に進学するも、バイク窃盗事件の冤罪がもとで退学処分を受ける。このことが彼に車やバイクのデザイナーになる夢を挫けさせ、同時に体制に対する拭えない猜疑心を芽生えさせる。

一方、PANTAとほぼ同じ頃に東京で生まれたTOSHI(石塚俊明)。彼の父は有名企業の労組委員長だったが、なんと会長令嬢と駆け落ちする。そのふたりの間に生まれたのがTOSHIだった。

PANTAとTOSHI、同じ頃に生まれたふたりは、戦後の迷走する潮流のなかでそれぞれの胸に反骨心と音楽への憧れを育てていった。そしてふたりは17歳のとき、とある「農協パーティー」で出会うことになる。

1968年、大学に進学するふたりを待ち構えていたのは、吹き荒れる学生運動の嵐だった。次の年が明け、東大闘争の鎮圧によってその暴風がようやく静まろうという頃、ふたりは再会する。

そして、1969年12月、「頭脳警察」を結成…!

当時はグループ・サウンズが熱狂的な支持を得ていた時代だった。しかし、頭脳警察はその枠にとらわれない。自分たちだけの音楽と詩の世界を追い求めていた。芸能業界の紆余曲折のなか数々の「事件」を起こしたのち、彼らは歌謡界を離れ、ライブハウスを中心に活動を開始する。

時は過ぎ、ベトナム戦争、あさま山荘事件などを経て若者たちの生き様が変わりゆくなかでも、頭脳警察は成田闘争の地・三里塚でのイベントに参加するなど、体制化の波に押し流される時代の風潮に逆らい続けた。そしてついに、のちに“革命三部作”と呼ばれる「世界革命戦争宣言」「銃をとれ」「赤軍兵士の詩」が学生たちの圧倒的な支持を受け、頭脳警察は一気に時代の寵児となる。鬱屈した社会情勢に圧せられていた若者たちは、熱狂的に彼らの音楽と詩を求め、また頭脳警察も彼らの心情をストレートに反映して咆哮した。

しかし、やがて彼らはもっと純粋な音楽への探究を模索し始める。本当にやりたい音楽を追究するには、大衆に支持された現状自体が足かせとなっていった。そして1975年。頭脳警察は自ら時代のステージを降りてしまう。頭脳警察から放たれたPANTAとTOSHIはそれぞれの道を歩み始めた。以後、幾度も離合集散を繰り返しながら、頭脳警察は活動を続ける。彼らの正直すぎる在り方は、ときに人々を熱狂させ、ときに戸惑わせた。それでもなお、頭脳警察は、あらゆる時代の変遷のなかで世界と対峙している。半世紀のあいだ変わることなく。

彼らの膨大な足跡は、時代に何を刻み付けてきたのだろうか。そして、これから何を刻み付けようとしているのだろう。絶え間なく過去を振り切りながら疾走するロックバンド、頭脳警察。いま、彼らがその真実を語り始める…!

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